こんにちは、やなだです!
今回は H.ラボー作曲「演奏会用独奏曲(ソロ・ド・コンクール)」について、解説していきます
“楽譜から読み解く“ 演奏者にとって、非常に大切なことですね。
どう読み解くかで、あなたの演奏が変わります
作曲家について:H.ラボー
※最初にお伝えしますが、この記事はわたしの想像の中にある解釈になります
初めましての音楽を演奏するとき、一番初めに知りたいことは「どんな作曲家がこの曲を書いたのか」
性格は明るく、ユーモアがある作曲家なのか
それとも真面目で、形式を重んじる作曲家なのか など
作曲家の背景を知ることで、どのような思いで作られた音楽なのか想像することができます
それが正解か不正解かは関係ありません
あなただけの音楽を作ることで、それが生きた音に変わるのです
H.ラボー(1873-1949)
フランスの作曲家、かつ音楽教育者だったアンリ・ラボー(Henri Rabaud)
音楽一家の中に生まれ、音楽傾向は古典的な伝統を大切にするタイプ
このことから、想像できるのは
フランスの作曲家→和音の響きが美しい
教育者→真面目、テンポ感がしっかりしている
伝統を大切にする→調性感や、旋律と伴奏が整っている
といった内容。
そしてこの「演奏会用独奏曲(ソロ・ド・コンクール)」は、1901年にパリ音楽院の試験曲で使われた曲
試験曲となると、演奏者の個性と技術、どちらも聴き比べられるような構成になっていることが想像できます
実際に楽譜を見ながら、解説していきましょう
演奏会用独奏曲Op.10【曲目解説】:Moderato
冒頭はピアノ、f-moll (in C) 漂う主音から始まります
その上で特に何も指示がないクラリネットのカデンツァ
指示が少ない時ほど、自分自身で音楽をどう創るか考える必要があります
第一の試験監督チェックポイント、といったところでしょうか
指を動かせるのは最低ラインで、どのように音楽を創ってきたのかを見ていたのかもしれません
指が難しいと、1つ1つの音を一生懸命に演奏してしまいがちです
ここで楽譜全体像を見てみましょう
前半2小節はアルペジオ上行→下行→上行
下行で○を付けた音は掛留音のような役割を果たしていますね
後半2小節はスラーの切り目が半音階で下がってきています
そしてディクレシェンドまで。
よって冒頭4小節は大きく見て、
アルペジオ上行形→半音階下行形
という形になります
この形が理解できるだけで、指の動かし方が楽になりませんか?
もう少し加えるとすれば、
- アルペジオの和音の響き
- 半音階で降りてくる音楽の流れ
- 上行形と下行形での強弱変化
これが分かるだけで、かなり試験監督攻略ができるかなと思います
5〜8小節も同じで、スラーの切れ目で徐々に音が上がる形です
そしてここからは、5つと7つの音のまとまりになっていることがわかります
- 5つ→上行形
- 7つ→下行形
進んでは戻る、を繰り返して最終的に大きなクレシェンドにつながります
パッと見たら難しそうなカデンツァですが、頭で理解できれば心に余裕が生まれますね
冒頭は、あなたが思うように自由に演奏して良い箇所です
無理に速くしたりせず、思うがままの音楽にしたほうが本来の音楽に近づけるのではないでしょうか
演奏会用独奏曲Op.10【曲目解説】:Largo
カデンツァが終わり、次に来るのはなんとも切なく哀愁漂うLargo(ラルゴ)
個人的にはLargoが一番好きです
まるで時を刻んでいるかのような伴奏に、クラリネットの深海で響くメロディー
全体の大きさは「p(ピアノ)」
そしてsostenuto(ソステヌート)は”音を保って“という意味
ここでどのようなことが考えられるかというと、
- 音が小さいほど大切に(丁寧に)演奏してほしい気持ちが込められている
- 音を保つのは一つ一つの音を大事に演奏してほしい箇所
どこまでも丁寧に、真っ直ぐ歌い続けてください、という指示でしょうか
こんなにも詳しく指示があるのはLargoだけです
基本は短調の旋律ですが、時より垣間見える長調の旋律
わたしはこの長調が、海の底に通じる一線の光に見えてくるのです
途中の強弱変化など、音形が盛り上がりきれないところからして
もがき苦しみ、悩み、希望を願ったとしても
最後に感じるのは人生に対する虚無感のようなもの
こんな悲劇のような場面が目に浮かびます
Largoの最後には「pp」で終わり、静かに沈んでいくのです
ぜひ感情を込めて、一つ一つの音を大切に演奏してみてください
演奏会用独奏曲Op.10【曲目解説】:Allegro
Largoで人生の終着点に向かい終わりかと思いきや、最後の一音で転機が訪れます
人生とは不思議なもので、もうダメだと思っても上手くいくようになっているのでしょうか
転調も入り同主調の F dur (in C) に変化、そして拍子も4分の2拍子に
ここからは新たな波に乗り、山越え谷越え色んな冒険が始まる模様
(↑曲調が長調だったり短調に変化したりしているため)
スラーが細かく指示してあるようにも見えますが、それよりももっと大きな音楽の流れを感じます
楽譜通りに演奏した上で、音楽の流れに乗れるかどうかをチェックされそうな箇所ですね
今まで伴奏に徹していたピアノも、旋律をなぞるところが出てきます
Allegroで意識するポイントは
- 大きな音楽の流れを捉える
- 伴奏と旋律が混ざり合う箇所を大切に
- 時は刻まれているので、テンポは揺らさない
楽譜をよく見ると、音楽が前に進むように伴奏で16分音符が続いたり、3連符で流れを創っています
視覚からでも分かる、音楽の流れです
そして旋律と伴奏がユニゾンする時、そこには何か重要な意味があります
「急いではいけない」という優しさなのか、それとも一緒に冒険を歩んでいる光景なのか
しっかり足並みを揃える、という意味でもお互いを意識したいところです
最後の場面は完全に長調になり、前向きな音楽でどんどん進んでいきます
8分の6拍子で3つの音のまとまりだったのが、途中4分の2拍子で4つの音のまとまりに
だんだんと音楽が刻まれていきます
ここからはアーティキュレーションがよく書き込まれているので、楽譜通りに近づけたいですね
音形が上がる拍頭の音を大切にして、着実に前へ進みましょう
どん底に落ちた人生から、まだまだ先は続いているという希望の光に導かれているのでしょうか
色々なメッセージが込められている楽曲です
演奏会用独奏曲Op.10【曲目解説】:全体像
全体を通してわたしが感じたのは、
- 教育者だからこそ、自ら考えて演奏させる場面が多く、前向きに考えられる楽曲
- 伴奏と旋律で役割分担があるので、曲全体がスッキリしている
- 調性や音形、アーティキュレーションで音楽の流れをわかりやすくしている
- どん底に落ちた人生から、希望の光に照らされて前を向いて進んでいく音楽
ということ。
試験曲なので、ソリストがどのように演奏するかで音楽が変わるようになっていますね
フランス音楽だからおしゃれに演奏したいですが、音形に惑わされずテンポ感を持って演奏しましょう
この「演奏会用独奏曲」は高揚や沈着のような表現がとにかく素晴らしい!
ぜひその対比を上手く表現して、聴いている方々の心を魅了したいところです
まとめ:H.ラボー:演奏会用独奏曲Op.10【曲目解説】楽譜から読み解く音楽(1)
今回は「演奏会用独奏曲」について、楽譜から色々なメッセージ性を読み解いていきました
あくまでも推測なので、全てが正解というわけではありません
自分なりに解釈をし、どのように音楽を創るかが大切だと思います
今この独奏曲で、悩みをお持ちの方のヒントになれれば幸いです
曲の物語を考えるのが好きなので、今後もシリーズ化として検討中の意味を込める(1)でした!